銀座ニコンサロン(ニコンプラザ内)3年前、作者がテレビを見ていると、ある写真が画面に写し出された。それは北朝鮮の拉致問題を取り扱った番組で、そこで拉致被害者である蓮池薫さんの北朝鮮で撮られた海水浴の家族写真が紹介された。番組でその写真を見せた本来の目的は、写真のずっと後ろに写っている別の海水浴客にあり、じつは横田めぐみさんとその夫のキム・チョンジュルさんで、これこそ横田めぐみさんが北朝鮮に拉致され、同じく拉致被害者であるキム・チョンジュルさんと夫婦になっていた証拠だというものであった。
その部分を拡大された映像は、本当にそうか判断することができないほど引き伸ばされてぼけていたが、その不鮮明さゆえに作者は一層興味を惹いた。
何よりも作者は、海水浴という言葉の持つ響きが、それまでもっていた拉致、飢餓という北朝鮮のイメージとは全くチグハグに感じ、驚いた。そして、その海水浴の写真に写っている風景、写されている人達の表情は、世界のどこにでもあるごく普通の海水浴の写真そのものだった。
作者はその「普通さ」に驚き、これはいったい何が本当なのだろうかという気持ちになり、それまでもっていた北朝鮮のイメージが、もしかすると間違っていたのかもしれないとも思い、できれば実際に北朝鮮へ行ってみたいと考えた。
それは政治的な意識でも、真実を伝えようというような意識でもない。そのときの不思議な感覚は、ずっと昔に見たミケランジェロ・アントニオーニの映画「欲望」(Blow-up)の一場面――主人公のカメラマン、トーマスが大きく引き伸ばした写真の一部に不可解なものを見つけ、その現場に急いで戻るシーンで抱いた感覚と同じようなものかもしれない。何か思いもよらないことを見た時の、頭の中がぐるぐる回り、とにかく見たいという一種の興奮状態、それが作者の旅の動機となった。カラー約60点。
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